戯れ言(あるいは呪詛)の置き場

映画、アニメ、小説へのつらつら

2020年ベスト「映画」について(後編)

皆さんこんにちは&こんばんは。
グラビトン・ボルト(侵略者)です。

昨日勢いでスタートし、ベスト10本の感想をサッと連ねられればと思っていたのですが、
思いの外長くなってしまったので、5本ずつの前後編形式としました。

では、6位の作品からつらつらと。

6 影裏
(大友啓史監督)

正直、自分は大友啓史映画のあまり良い観客ではない。
るろ剣」の実写化は谷垣健治さんによるアクションが映えていたものの、ドラマはどうしたって鈍重、尺は長くなってしまうしで「ちょっと豪華なニチアサ」ぐらいにしか感じられなかった。
ただ、当時やたらイライラしながら見ていた
3月のライオン」に関してはTV放映で見ていると主人公たる神木隆之介が様々なタイプの
「父権」と対局するように演出・構成されており、力で圧倒するタイプの父親像を伊藤英明、知的・静的な父親像を佐々木蔵之介
超然とした、子供からは理解の及ばない憧れの大人としての父親像を加瀬亮に担わせ、彼らを丁寧にカメラに納めることで「男を綺麗に撮る」というポイントは見事に達成されていた。
なので、松田龍平綾野剛が出会い、両者の距離の伸縮を撮る「影裏」には結構期待していた。
結果として今作はとても見応えがあったと思う。
元々美形の綾野剛に「生活」を纏わせるショットの連なりがこれまでの作品からは考えられぬほどに丁寧だ。
ファーストショット、寝転ぶ綾野剛の臀部からゆっくり右にパンしていくカメラの執拗さ、尻から漂う色気と重さを見事に撮していたし
松田龍平との交流の一貫である「釣竿」をただひたすら「釣竿」として撮っている辺りが好感度大だった!
こういう、同性愛だったりある種の性愛を題材にした映画で「アイテムをただアイテムとして撮る」のは意外と難しいんですよ皆さん!!!
あの青山真治「共喰い」でさえも揺れる釣竿は
「男性器・勃起のメタファー」として何の面白みもない収まり方をしてしまっていたのは忘れ難い。
今作は松田龍平との交流の一貫として釣竿が撮されているからか、あるいは綾野剛の役柄と演技が
見せない、秘めたる色気にウェイトを置いているからかこうした「露骨に性を意識させるアイテム」や
無駄に生々しい性が画面を曇らせることなく進行してくれていた。
大友啓史であろうと、どんな作家であろうとこうした慎ましやかな秀作を撮る可能性もあるのだと強く記憶に刻んでおきたかった。
故に6位。

7 無頼
(井筒和幸監督)
これについては、正直あまり言葉を持っていない・・・というか非言語的な「ムード」を纏った映画なんだと思う。
ヤクザの日常の狭間に暴力を挟み込み、ひたすら
「何もない時間」をひたすら撮っていき、
「この画はどこに終着するのだろう?」と疑問を感じた所で、フレーム外から響くあの街の音。
あぁ、そこに引き摺られていた男の話なのだなと。
シレッとラストショットで着地して見せる辺りズルい。

8 透明人間
(リー・ワネル監督)

今年あんまり観れなかったので、ホラー映画は貴重!ホラー映画は栄養!ということで、ベストに入れない訳にはいかなかったのだ。これ、怖くて面白かったよなぁと。
冒頭、「恋人と眠るベッドから相手を起こさないように抜け出す」件からもう巧い。
主人公の台詞は「ちゃんと彼が寝ているかどうか?」を確認するのみに留めて、睡眠薬の袋、警報器のスイッチのON/OFF、など「たかだか一人の男性から逃げる為にここまで対策が必要だったのか?」と観客に違和感を抱かせ、状況の異常さを理解させる手腕が素晴らしい。
以降、「彼」が本格的に逆襲を始めるホラーパートは主人公の精神的弱点を突いてくる執拗さ、
虚空から覗かれている違和感を常に抱かせてくれる撮影と役者のリアクションが素晴らしかった。
「透明化」のネタが割れてからも、弱体化するどころか「スーツのギミック」が彼のモンスターとしてのグロテスクさを強調する。
わざわざ雨を降らせて銃撃したり、場面を派手に彩る無茶な演出も面白かった。
大好きです。

9 劇場版仮面ライダー ゼロワン
(杉原輝昭監督)

ゼロワン、やっぱ今年観といて良かったなと。
天津周りの処理で脚本の筆が鈍っていたのが明白だったから、本編の展開を語りきった後に美点であった洗練されたルック、凝ったオモチャギミックを全面展開出来る映画は全て心地よかった。
後、脚本家のSF趣味がマトリックスレボリューションズ辺りから来てることを伺える無人駅の件はニヤニヤしながら見ていた。
それに、伊藤英明と山崎紘奈の真相を提示する教会のシーン、仮想とリアルにショットで分断された愛する二人がもう一度出逢う瞬間を捉えていた。
ここは一度TV放映版で「生/死」に分断されてしまった或人とイズが同一フレームで変身する感動と対比になっている。シビれた。
ショットも、ギミックもノっていて、作劇のスピードが速い。
気持ち良い傑作だった。

10 魔女見習いをさがして
(佐藤順一監督)
前述したゼロワンと真逆で、尺の短さに対して
プロットの詰め込みっぷりがギリギリで正直
舌足らずな部分もある代物だとは思うのだが、
そこはクレジットされてる熟練&凄腕の面子ががっつりカバーする。
障害者支援学級で主人公が新たな道を見付ける瞬間、その場にある全てを肯定するかのような太陽光の演出には正直負けた。
終始強い画面が続く。
ラスト、憧れたフィクションのキャラが使う力や展開ではなく、「そのキャラクターが元々持っていた内面の美点」を魔法として再定義する。
「私たちが美しく在れるのは貴女達のお陰なんだよ!」という、フィクションからフィクションへのラブレター。
間に立つ俺達は、そこに何を見るんだろうか。
忘れ難い1本だった。

以上、30分過ぎて2021年ですが、去年のベスト後編でした!
来年は「キャプテンアース」の感想から始めて、
色々綴っていきたいぜ!よろしくぅ!